二年になるときに教頭になった
だから授業は一年間しか受けていない
中学校卒業式の日
たまたま教頭に声をかけられた
どこに進学するの?
と聞かれ
なんとなくぼんやりと決まった進学先を告げると
教頭先生はひどくがっかりした
君だったらもっと上に行けたんじゃないの?
といったのだが
成績なんて下から数えた方が早かったし
一年の国語の授業だけで
僕のことをどういう目で見ていたのかが
いまだに皆目見当がつかない
落胆する白髪頭の教頭の表情は
三十年経った今もくっきりと
脳裏に焼きついている

なにか違和感を感じた
以前にも感じたことのある
生命から魂が抜ける時の予兆
違和感は鳥籠の鳥だった
あ、もう長くないなと直感した
そもそも十三年は生きているので
いついってもおかしくはない
平均寿命は六年から
長くて十年といったところだろう
ちょっと前に魚が死んだ
これも長く生きて二年くらいしか生きない
ベタという種類の魚だったのだが
どういうわけか三年は生きた
魚の時も
あ!
そろそろくるなという
予兆を感じ取った
迷犬ゼウスも
鳥のそれに気づいたのだろう
籠に寄り添って
ヒンヒン泣いていた
鳥もクルクルと鳴いた
信頼している者にしか出さないやつだ
こんなことはそうそう無い
さらに
昨夜は
ありえないことが起きた
自ら手に乗ってきて
甘えて離れることが無かったのだ
そして朝
布を取ると
地面の角で寝ていた
羽毛も膨らんでいて目も開いている
相当調子が悪いのだと
抱き上げると
動かないままだった
動くことはもうなかった
死んだ後は
羽毛がぺたっとして
身体も反ったりするから
まだ生きているように見えた
が
もう魂は抜けていた
抱き上げた感触と目を見る限り
つい今さっき息を引き取ったのだろう
幾度も鳥が亡くなるのをみたが
持った瞬間に遺体とわかる
物理的な軽さ以外の軽さを感じるのだ
抜け殻感というべきか
これを亡き骸というのだろう
手にとって顔を覗くと
あっという間に羽毛が萎んで反り返った
みるみる死んだ時のそれになった
いつもなら迷犬ゼウスも飛んできて
鳥の匂いを嗅ぎにくるのだが
それもまったくしなかった
三十代の前半にこの鳥には助けられた
青い魚にもコロナ禍で励まされた
身の回りのものたちが次々と星になっていく
次はゼウスか
自分の方が先かもしれないが
死んでいった家族たちも
教頭先生みたいに
ぼくのことを買い被っていたのだろうか
この人に育てられて良かったという
過大評価があるならば
喜んでそれを噛み締めよう
夢で
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