この世で最も好きなエリアがある
そこへは徒歩でも行ける
心臓破りの坂道が大丈夫ならば
雪がとけたら行くと決めていた
その日の朝
遅めの食事をとったのち歩きはじめた
南へ向かうこと15分
歩む道は緩やかな上り坂に変わる
古くさい街並みを見ると
数十年前にタイムスリップしたような
錯覚を覚えた
信号のある横断歩道を越えると
急に勾配がきつくなる
『この世の果て』のはじまりの合図だ
二歩目で汗が浮き出てくる
それくらいの急斜面
あとで知ることになるが
スマホのフィットネスアプリでは
建造物にして25階を登った事になるようだ
恐ろしき急勾配
勝手に『この世の果て』と呼んでいるが
これより先に人が立ち入れない部分までは
車でしか行ったことがなかった
正しく言えば
行ったつもりでいたのだろう
徒歩じゃないと入れないところも
あるのだと知った
そこを意識的に確認するのは
この日が初めてだった
町に入ってすぐ異変に気づいた
前に訪れたときにはあった建物が
数軒無くなっていたのだ
ディープなエリアの入り口に
町内の案内地図がでかでかとある
聖地は1丁目から4丁目までで構成されているが
4丁目は国の指定なんとかで人は居ない
つまりは秘境
いや、魔境なのだ
3丁目までの住人の名前が
地図に表記されている
個人情報ダダ漏れである
2017年のデータでは
人口が770人とあるが
今現在、200人もいないだろう
それくらいの過疎地である
どんなに歩き回っても人に会わないのだ
原寸大の模型の中に迷い込んだのか
そんな町の
なにに惹かれるのかというと
普通の建造物がない事だろう
普通というと抽象的すぎるかもしれない
だがしかし
駄菓子菓子
そうとしか言いようがない
コンビニはおろか
郵便局や銀行もない
娯楽施設はもちろんのこと
人が働いている会社が全くないのだ
にも関わらず高級フレンチが
3軒あるのはどういうことだ
交通機関もほぼ機能しておらず
1時間に1本バスがくるだけの町だ
観光地でもない
だから余計に気味が悪い
しかしながら
その空間にいるだけで
心が安らいでくるのが不思議だ
西の果てを目指すと
日常で目にする事のない
建造物がひしめき合う
その先は深い漆黒の森で
人間は立ち入る事ができない
ヒグマしかいないようだ
熊出没の注意書きが
ゴミステーションにあるのが
リアルな恐怖心をかき立てられる
今度は東の果てを目指すと
途中、公園が2つあった
公園にも人の気配はない
久しぶりにブランコに乗ると
2秒で酔った
大人になると
乗れない作りになっているようだ
ちょっと進んだだけで
先は見えてきた
3丁しかないのだから
当たり前のことだが
道端に
ツチノコ以上
アルマジロの赤ちゃん未満の
松ぼっくりが落ちていた
こんな松ぼっくりは見たことがない
リムジンじゃないか
いよいよ東の果てだ
果てにたどり着いた
ここから先も森だ
地図を見てわかっていた
ただ
地図にない
なにかがありそうな気がして
己の冒険心がここまで歩かせたのだ
西と東の果ては確認した
残るは北だ
歩く
そして歩く
どこまでも
北の果てが見えた
すぐそこに
これ以上先はないのか
駆け寄る
地の果ての証があった
・・・
行き止まり!
映画トゥルーマンショーかよ!
この看板を目指してきたのか...
折り返すことにした
え?なんだ
病院あるじゃないか?!
そうですか...
個人のお宅ですか...
なんだこれ?店ではないようだけど
Googleマップにも表示されない
歴史の紐を解くと
この町は
大正時代に焼物で一世を風靡したという
記録がある
その名残なのかもしれない
帰り道
うっかり石ころを蹴ると
視界から見えなくなるまで
転がり続けた
それくらいの坂道
今度は夜にこよう
ライトアップされた
僕のしらない
聖地を見れるだろう
聖地巡礼日和
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