近所にできた友達の話 第1話

その夜

僕は行きつけのバーでひとりで飲んでいた

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2杯目を注文した頃
泥酔状態の男が入ってきて
ぼくの隣に座った

「日本酒ちょうだい。ビールチェイサーで」

その頼み方に他人とは思えない
シンパシーめいた何かを感じた

男はこっちを見ると唐突に
「彼女とケンカしたんだよねぇ」と言った

『言った』というよりかは
『漏れた』という感じだった

初対面にも関わらず
恥も外聞もなく喋り続ける男

彼の名前はSちゃん

同じ歳のSとは不思議と話が弾んだ

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ビールチェイサーは当たり前だよねぇ
なんて盛り上がっているところに
客が入ってきた
50代の男性と若い女性だった

女性は僕らの後ろを通り過ぎる際
「なんでいるの!?」と険しい顔でSに囁き
奥のテーブル席の部屋へと消えた

今の女の子知り合い?と僕が聞くと

「今のがケンカ中の彼女さ」

えっ?いやっ?はぁ?一緒のおじさんは?

「直接は知らないけど
お金持ちの実業家って事は知ってる」

そうか、仕事絡みとかかなぁ
(そうとしか言えなかった)

聞けば、一軒目で
彼女と飲んでいるところでケンカになり
彼女が帰ってしまった

二軒目、ひとりで荒ぶれて飲みつぶれ
五時間寝てしまったのち

三軒目にこのバーに来て
隣にいたのが僕だったという事だ

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一緒にいた彼女と数時間後に
別の男性といるところに鉢合わせとは

他人事だからだろうか
汚い野次馬心が芽生えはじめた

僕の中でそれを精一杯押し殺したが
まともじゃない空氣に非日常を感じて

不覚にも心躍る自分がそこにいた

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Sとケンカ別れした私は
地下から5番出口の階段を駆け上がっていた

もういい、あんな男なんて

スマホが鳴った

この前のジビエの店良かったね
今ってなにしてる?
暇なら一緒に飲まない?

それは三嶋さんからのLINEだった──

僕のなかにウイスキーが染み渡ると
Sが五時間寝ている裏で起こったであろう
ありもしない架空のシーンが脳内を交錯した

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Sちゃんは店主に〇〇をかけてと
リクエストをすると
店に相応しくないJ-POPが流れた

なんでこの曲リクエストしたの?

「彼女と俺の一番好きな曲なんだ」

ほう...

「彼女が曲に気付けば
俺からのメッセージだとわかるはずだ」

ほう...

・・・

第二次世界大戦の映画を思い出した

強制収容所で離れ離れになったユダヤ人夫婦
妻の好きだった曲を聴かせようと
アナウンス室に侵入し
妻に向けて勝手に曲を放送する夫

あのシーンではないか

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「アキラくん...彼女曲に気づいたか見てみて」

頭を精一杯後ろに伸ばして
奥のガラス張りの空間を見た
スピーカーがその部屋にも連動されているから
曲は聞こえているはず

だがしかし
駄菓子菓子

彼女はガン無視だった

うん....気づいては..いると思うよ...
(映画のようにはならなかった)

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登場する人物すべてが初対面で
誰が主人公なのかわからないSTORY
それ故に誰にも感情移入できないまま
閉店時間となった

気付けば僕ら以外の客はいなかった

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Sちゃんの家は近所と聞いていた

バーを出て歩いているうちに
すぐに僕のマンションの前まできた

「うちはあそこなんだよね」

え?

Sちゃんの指を目で追うと
僕の家の真っ正面にある
徒歩1分のところにあるマンションが
Sちゃんの家だった

「あいみょんのマリーゴールドのギターを
教えて欲しいからアキラくん今うちにきて」

なにが起こっても
どんな言葉を聞いても
驚かなくなっていた

そうだね

そのままSちゃんの家に行った...

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朝方、初対面の40代男2人が
部屋に転がるガットギターで
あいみょんを弾き語る

麦わらの帽子の君が
揺れたマリーゴールドに似てる

あれは空がまだ青い夏のこと
懐かしいと笑えたあの日の恋

「もう離れないで」と
泣きそうな目で見つめる君を
雲のような優しさでそっとぎゅっと
抱きしめて抱きしめて離さない

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いつしかSちゃんは眠っていた
僕は彼を起こさないように家を出た

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翌日、Sちゃんから
彼女と仲直りしたよーという
LINEが来ていた

それからというもの
連絡を取り合うようになった僕とS

しかし

この話には続きがあることを
その日の僕はまだ知らない




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