小学生の頃──
法事で親戚一同が寺に集まることになった
その寺は
過去に行ったことのあるところで
長い廊下を歩いた記憶があった
靴を下駄箱にしまって
姉の後ろをついていった
角を曲がると
見覚えのある長い通路に出た
ぴょんぴょん飛び跳ねながら
「まだ歩くの?」と
姉の後姿に投げかけると
背後から
ダダダダダダと
足音が聞こえてきた
振り返ると
女の人が走ってきて
僕たちを追い越していった
え?
あんな人いるの?あ、そっか
お寺だからああいう人がいるんだ
女性は着物を着ていたのだが
時代劇でしか見たことのない感じの着物で
それは百人一首を彷彿させた
振り返った姉は
目を丸くして僕を見た
すると
矢継ぎ早に背後から
ドドドドドと足音が聞こえてきた
みると
白と黒の着物を着たおじさんが2人
「こら、ちょっとまて」
と僕らを追い越していった
女の人を追う寺の人だということはわかった
でも、どうして
お寺で鬼ごっこなんてしているんだろう
その光景はまるで平安時代のようだった
ややあって
おじさん2人が戻ってきた
「着物の女の人を見なかった?」
「見た!」2人は同時に
「戻ってきた?」
「こない!」
質問の意図がわからなかった
「この通路は一本道で行き止まりなんだ」
「えっ?」
「だからいなくなるわけがないんだ」
「女の人って、ここの人なんですか?」
姉が『人間なんですか?』という意味で
聞き返したのは僕にも理解できた
「いや、違うんだけど、前にも出たんだよ」
「出た..んですか...」
こんな現実離れした事が起こったのに
妙に落ち着き払ったおじさんの顔をみて
幼い僕は、好奇心で心が躍った
それからというもの
怪談というものに目覚めた少年は
数十年たった今でも
いつかのあの女性に逢えないかを
心待ちにしている
今ならおじさんに追われた女性を
見つからないところへと
かくまってあげられるだろう
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