夢だった
深夜に目が覚めて
ふたたび眠りに落ちるまで考えた
夢でみたマッチ売りの少女のことを
大晦日の夜
貧しい少女は酒に溺れる父親に
マッチが売れるまで帰ってくるなと
家から追い出された
慌たゞしい年の瀬に
少女の声に耳を傾ける者はいない
馬車にはねられそうになり
靴を盗まれ、空腹と寒さの中
暖をとろうと少女はマッチを擦ると
炎の中から暖かい暖炉が現れた
幸せな温もりに包まれたが
マッチの炎が消えると全てが消えてしまった
残ったのは燃えかすだけだった
マッチを擦るたびに
豪華な料理やクリスマスツリーの
幻影が現れる不思議な現象に見舞われた
さらにもう一本擦ると
なんと最愛だったおばあさんが現れたのだ
おばあさんだけは絶対に消えて欲しくない
少女はありったけのマッチを束にして擦ると
見たことのない大きな炎に包まれた
おばあさんに抱きしめられた少女
凍えていた体が嘘のように暖かい
わたしを寒くないところへ連れて行って
ものを食べられるところへ連れて行って
おばあさんとずっといられる場所へ
二人は高い天の上に消えた
翌朝、少女は
街の人々に発見される
寒さに耐えきれず
マッチを擦って亡くなったんだね
可哀想だね
と、人々は安らかな表情で眠る少女に同情した
子供のころ
家にも入れない凍えた少女に
お金持ちはなぜ手を差し伸べなかったのか
困っている人は助けましょうね
という教訓めいた物語なのだと思っていた
しかし夢でみたのは
ちょっとだけ違っていたようだ
人は皆
生まれてから死ぬ事がきまっている
大なり小なりあるにせよ人間とは
人生というマッチなのかもしれない
親や環境を選べずに
生まれた少女
母親を亡くした悲しみ以外
唯一残っていた
おばあさんの愛に
消えるマッチの一秒の中で
永遠を生きようとした少女
寒かっただろうね
苦しかっただろうね
寂しかったよね
ううん、おばあさんと一緒だもん
哀しくて涙があふれた
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