『勝てる勝負しか挑まない
戦わなきゃ負ける事もない
そんな言葉
部屋で一生マス掻き死んでく奴の言葉』
あの人の言葉が途絶えた
もう一回・・あと一回・・挙げられるかどうか・・・既に限界点は超え、ないはずの力を振り絞りバーを握り直す。ハッと一呼吸して氣力だけで挙げようとしたその拍子、耳からデヴァイスが外れ、「あの人」の言葉が途絶えた。
その瞬間、全身は宙に浮かび上がり、施設の天井をもすり抜け大空を舞った。
またあの暗くて冷たい漆黒の古井戸の中に戻ってしまうんだ。舞い上がったところから急降下した肉体は水面を叩き、ゆっくりゆっくりと冷たく濁る古井戸の筒の闇を、ぼくはあの時と寸分狂わすに沈みゆくのであった。
もう戻る事はできないのか
ゆっくりまたゆっくりと沈んでいく。ぼくの再起できたはずの心も折られているのに。
忌まわしき過去の記憶が夢では無かった事を冷酷にも水温が教えてくれた。
ゆっくりまたゆっくりと沈んでいく。
水面に揺らめく紅葉が星屑ほどになった時、デヴァイスが耳に戻り、あの人の言葉が届いた。
挙げられなかったものが挙がる。
はっきりと言葉が脳内に轟く
『その幸せは 誰かに勝つためじゃなくていい
僕らの笑う理由は 誰を見返すためじゃなくていい
I LOVE the WORLD』
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